本条蔵 -ホンジョウゾウ-

本やゲームなどの感想です。まだまだ移行作業中。概ね敬称略です…。

小手川ゆあ 「ショートソング 1」

ショートソング 1 (ジャンプコミックスデラックス)

ショートソング 1 (ジャンプコミックスデラックス)

あこがれの舞子先輩に連れられて、半ば無理矢理「歌会」に参加することになった青年・国友克夫(くにとも かつお)。
その会場で克夫は、舞子先輩の彼氏である歌人・伊賀寛介(いが かんすけ)と知り合う。
克夫の才能をいち早く見抜いた寛介は、イノセントな克夫に対して仄かな嫉妬を抱きつつも、克夫をイジりつつ指導することで、己の行き詰まり感と折り合いをつけようとしていた……。

原作は、大好きな歌人であり、コラムニストや芸人としても活動中の枡野浩一さん。
作画は、こちらも大好きな漫画家である小手川ゆあさん。

最近、ツイッターでこんな呟きを見かけて(登場人物の名前の元ネタ一覧)
須之内舞子→……
「これは未読本棚に積んでる場合ではないぞ」と慌てて発掘してきた次第です。

女好きで自己中な寛介。寛介を想う舞子。そんな舞子に想いを寄せる克夫。
そして、寛介たちの短歌仲間である大人びた女性・佐々木瞳(ささき ひとみ)らの交流を描いた、短歌と恋情が交錯するストーリーです。
登場人物が抱える、それぞれの「短歌」への想い、そして友情や恋情が面白い作品。

……なのだけど、初読時は「名前のアナグラムすげー!」とか「性別反転しててたのしー!」とか、メタな楽しみ方をしてしまいました。
ストーリーを落ち着いて純粋に楽しめたのは、むしろ二回目以降だったり。

克夫とダブル主人公であるところの寛介が、それなりの地位と実力を持ちつつ、それゆえに葛藤しつつ、そしてどうしようもなく女性にだらしなくて、ダメ男だけど魅力的です。
そして克夫イジリが鬼で楽しい。陰湿に虐めるんじゃなくて、タチの悪いちょっかいのような感じで。そして、最終的にはそれらが寛介自身に返ってきたりするところも何とも言えず。

要所要所で短歌が挿入されるのも面白いです。
特に枡野さんと柳澤さんの歌は、知っている作品が多かったので、「このシーンでこれかー!」という、ある種の「してやられた感」も楽しくて。
知らない歌人さんの作品群も素敵なものばかりで、また欲しい歌集が増えてしまった(でも今ちょう金欠!)という、嬉しい悲鳴が。

舞台が吉祥寺なのも嬉しいところ。
「わ、ここのカレー食べたことあるよ!」とか、「このサーティーワン、昨日通り過ぎた!」とか。色々交錯するものが。

もっと短歌界に詳しいひとなら、フィクションの裏に見え隠れする様々なノンフィクションに戦慄したりするのかもしれない。
たとえばこう、派閥とか……恋愛模様とか……。
そこまで知らなくて良かった。本当に良かった。うん。

作中には柳澤真実さんの作品も多く引用されてるけど……そういえば、「君と小指でフォークダンスを(仮題)」(柳澤真実)の出版って、どうなったんだろう。
今は無きの新風舎「TILL」(文芸投稿雑誌)にも、単行本制作日記とかが載ってて、凄く楽しみしてたんだけどな。

何はともあれ、「ショートソング」の2巻を買おう。早急に。