笹公人 「抒情の奇妙な冒険」
- 作者: 笹公人
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2008/03/20
- メディア: 単行本
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短歌集です。でも、出版元がハヤカワです。ハヤカワといえばSFです。そういうことです。
「挿絵がえらい素敵だなー」と思いながら読んでいて、途中で気がつきました。とり・みきでした。そういうことです。
本書には、昭和中期をイメージして作られた歌が多め。他に、著者の青春時代や、人類滅亡後の未来をイメージして作られた歌などもあります。
「昭和中期の魅力を語る」作品って、ものによっては「昔は良かった」(俺たちの時代は素晴らしかったのに、今のお前らと来たら)みたいな空気が滲み出たりしてて苦手なのですが、本書からはそういった「嫌らしさ」は感じませんでした。
著者は1975年生まれ。私は79年生まれなので、「大学の先輩」くらいの年齢差です。昭和で言えば、どちらも50年代の生まれです。
「テレビや親を経由して、昭和中期当時のことをよく見聞きして成長してきたけど、実際その時代を過ごしたわけではない」くらいの世代。
そんな、ワンクッション置いてる感じ(だけど完全に「他人の時代」でもない感じ)が、リアリティーと共に、逆に より強いノスタルジーを生み出しているのかもしれません。
「昭和」と「SF」は、遠いようで、「(今はもう/実際には)ない」という共通項で、繋がり得るのかもしれない。
それに、ないものがふたつ合わさると、ありそうな気がしてくる不思議現象が起きたり。
あと、昭和中期の頃の方が、「胡散臭いモノ」に対しておおらかだっただろうな、とか。
UFOは「近未来っぽい」けど、昭和の方がUFO特番とか多かったよねーみたいな感じ。そういう相性の良さ。
…という感想を頑張って捻り出しましたが、本書の魅力は「わかりやすさ」かも。
「わかりやすい」っていうのは、「単純」ということではなくて、「奥深いんだけど、スーッと入ってくる」。
三十一文字を読み終えると、その情景が鮮やかに目に浮かびます。その情景は、往々にして「あり得ない」ものだったりもするけど、どこか抒情的。抒情的なんだけど、面白い。
東京に負けた五郎の帰り来て大工町の名はまた保たれる
収録を終えたる川口浩らが首狩り族と居酒屋に消ゆ
二十年(はたとせ)も風呂場の隅に置かれいるスーパーボールに宿るたましい
元ネタとなる冒険小説や社会問題、本歌取りの元歌を知っていれば、とてもニヤニヤできるし、ヒヤリとできたりして楽しいです。
でも、知らないことによって「ピンと来ない」ことはあっても、「難しくて意味がわかんない」感じではなくて。
というか、自分が「元ネタ」を知らなかったことを、巻末の解説を読んで始めて気付いた作品もあったり…。気を抜いてるとハッとさせられる。
あ、あと、これネタバレですけど、ジョジョは出てきませんよ!