本条蔵 -ホンジョウゾウ-

本やゲームなどの感想です。まだまだ移行作業中。概ね敬称略です…。

Innocent Grey 「PP -ピアニッシモ- 操リ人形ノ輪舞」

昭和十一年。それは、日本が 軍国主義に向かって加速しつつあった頃。
神楽坂のジャズバー「CADENZE(カデンツァ)」で ピアノ弾きとして働く青年・玖藤奏介(くどう そうすけ)は、あることがきっかけで 殺人事件の容疑を掛けられてしまう。
奏介は、事件当時の 己の記憶の曖昧さに混乱しながらも、隠れ家に潜伏しつつ、周囲の人々――出版社に勤める 幼なじみの女性・橘美華夏(たちばな みかげ)、事件直後に出会った少女・白河綾音(しらかわ あやね)、そして 謎の少女・御巫久遠(みかなぎ くおん)らと共に、事件の真相に迫ろうとするのだが……。

※シナリオおよびCG、コンプしました。


【ストーリー】 ★★★☆☆☆

ミステリアス&サスペンスな主軸と、奏介を巡る女性たちの感情模様、事件を巡る 各勢力の攻防……などなど、全体的に なかなか魅力的なのですが、要所要所で「あと一歩感」や「ご都合主義」が目立つのは残念です。
事件後に関わることになる 謎組織「清流会」(トップは国粋主義者っぽいのだが、組織自体は「ちんぴら集団」風)とのアレコレも、かなり荒っぽくて強引だったしなぁ……。

「ミステリ」としての出来でいうと、前作「カルタグラ」を下回ると思う。「一作品」としての出来では……やっぱり下回っちゃうなぁ。

前作といえば。
前作は「遊郭の居候が主人公の探偵モノ(和風)」、今作は「バーに勤めるジャズピアニストが主人公の逃亡劇(やや洋風)」、という対比が面白かった。季節も、前作が冬で、今作が夏だし。

閑話休題
主人公の「本命」がはっきりしているゲームって、匙加減が難しいよなぁ、と思う。「Night Demon -夢鬼-」や「真章 幻夢館」などもそうだったけど。
構造上どうしても 各シナリオの「共通部分」が長くなっちゃうところとか、プレイヤーと 「本命」キャラとの相性がイマイチだったときアレだよなぁとか、主人公の「本命」への執着が描写不足だったとき 全体が締まらないとか、マルチエンディング(他のヒロイン)に至る「心変わり」を描ききれるかどうか、などなど。
その辺りの諸々も、この作品では もう一声だったと思います。
「共通部分の長さ」に関しては、後述の 「縦書き+各ヒロイン視点」という特徴を活かして、「特定のエンディングを見ると、各ヒロイン視点の 新規シーンが追加される」などがあれば よかったんじゃないかな。

でも、エンディングは どれもそれぞれに余韻が残って印象的でした。Bad Endも含めて。


【キャラクタ】 ★★★★★☆(主人公:★★★☆☆☆)

主人公が、「(物理的には)強いけど(精神的に)かなり弱い」上に、肝心なところでは その腕っ節もイマイチ、加えて 女性陣に尻を引っぱたかれないと動かない、というか 自分から思考しようとしない感じがプレイヤーを苛々させたりさせなかったり。

玖藤奏介(くどう そうすけ)
…バーのピアノ弾き。昔は相当やんちゃをしていた。

白河綾音(しらかわ あやね)
…主人公の無実を信じ、事件の真相解明を提案する 快活な少女。

橘美華夏(たちばな みかげ)
…主人公に懸想しながらも、なかなか素直になれない 面倒見の良い女性。

菱谷琢磨(ひしや たくま)
…主人公や美華夏の幼なじみ。現職の刑事。

玖藤柚芭(くどう ゆずは)
…主人公の妹。最近まで、美華夏の実家に預けられていた。

護堂弦一郎(ごどう げんいちろう)
…バーのマスター。主人公を支えながら、関係者たちが落ち合い、相談する場を提供する。

韮崎璃宝(にらさき りほ)
…バーの同僚である歌い手。妖艶な女性。

高梨千花(たかなし ちか)
…バーの同僚であるメイド。言動がおどおどとした少女。

相馬葵(そうま あおい)
…「清流会」の女幹部。主人公を自分の意のままに使うことを快としている。

御巫久遠(みかなぎ くおん)
…ふと現れては 謎めいた言葉を残していく、頭脳明晰な少女。


【システム】 ★★★★★☆~★★★★★★

立ち絵があって、画面下にメッセージボックスがあって、横書きのテキストを読み進めていると 時々選択肢が登場する、という オーソドックスなノベル形式の作品です。
それらに加えて、時々 「縦書き+各ヒロイン視点」の、「一方 その頃あの人たちは…」みたいなテキストになるのが特徴的です。同じような作りのゲームとしては、TYPE-MOONの「Fate/stay night」あたりが有名か。

セーブ箇所は100箇所くらいあるし、たしか セーブデータにコメントがつけられたはずだし、随時セーブ&ロード可(選択肢でのセーブも可)なので、その辺りは問題なし。

既読メッセージの早送り等、メッセージ関連のシステムも一通り揃っています。
他にも、効果音とBGMの音量調節が 別々に行えるなど、充実した調整周りでした。

長時間プレイしていると、画像に 一部ドット落ちっぽい症状が現れることがあったのですが……これは旧型PCの処理能力の問題なのかもしれない。


【テキスト】 ★★★★★☆

可もなく不可もなく、読みやすい。ちょっとベタなところは多いけど、これはストーリーによるものなのかも。
前作の誤字・誤表現率を考えると、格段に進化した印象です。


【ビジュアル】 ★★★★★☆~★★★★★★

杉菜水姫氏による、ムーディーかつ繊細な 美麗イラスト群。
個人的に、アリスソフトの「おにぎりくん」氏、Ciel 「Tony」氏、元ニトロプラスの「中央東口」氏、TYPE-MOONの「武内崇」氏あたりと並んで 好きな絵です。

ただ、立ち絵と 一枚絵(イベント絵)のキャラデザのギャップがかなり大きいところ(久遠なんて別人だよ……)は、今後に期待したいところ。


【音楽】 ★★★★★★

もしもあなたが今 このゲームの購入を考えていて、目の前に「通常版」と「初回限定版(設定資料集&2枚組サントラ同梱版)」があるのであれば、迷わずに後者を手に取るべき。

しっとりとしたBGM群といい、挿入歌の本格ジャズ楽曲「all the way」といい、前作並に 良い仕事してます。BGMの中では「美華夏のテーマ」が一番好きかな。

ただ、前作のような「しっとりとした暗い曲」はやや少ないので、その辺が微妙に残念というか、もう 単純に好みだけの問題なんですけれども。

ストーリーやビジュアルとの相性も上々でした。むしろ、ストーリーが 音楽に負け気味ではある…。
公式サイトに視聴ページがあるので、ご興味ある方は是非。


【エンドロール】 ★★★★★★

エンディング毎に、エンドロールのデザインと 使われる楽曲が異なる、というのは 意外とありそうでないパターンかも。
「正エンディングのみ曲が変わる」という作品は それなりにあるけど、このゲームは キャラ毎に ほぼ全て違ったデザイン&曲だったはず……。これは良かった。


以下、エンディング関連のネタバレを含みます。



綾音嬢がお亡くなりになったのには、かなり度肝を抜かれました。
そして、最後の隠しシナリオ(綾音の死亡回避ルート)に関しては、どことなく「幸せな夢」っぽい雰囲気があって、ホッとしながらも 切なくなりました……。

隠しシナリオといえば、タイトルが「conductor」(指揮者)というのは、痺れますな。
「そうかお前がか」的なものと、それから、「作者」ではなく あくまでも「指揮者」なんだなぁ、と。

前作プレイヤーへのサービスも ちょこちょこあって、楽しめました。タコ焼き屋のおっさんとか、町並み(古書店側)にある「たかしろ」とか。

それはそうと…物語のキーとなる「リフ=ラフ」が、その存在そのものも 微妙にアレでありつつ、しかも「へんてこな形の銃」というドラえもんの秘密道具チックなアレで、色々と萎えました……。
それから、その名前から 個人的には「伯爵カイン」(由貴香織里)シリーズの執事が浮かんでしまって。その辺りからどうも、ストーリーを 一歩離れたところから眺めるようになってしまった気がする。

マスターは 主人公と比べものにならないほど格好良いのだけれど、Bad Endが続くと 「何様だよ」と思わなくもない。神の使いかお前は。

全クリした後も相変わらず、いや だからこそ、久遠は一番好きなキャラです。
もっとも、「籠の鳥」から脱出するくらい 自分でおやりよ、いくらでもやりようはあるだろ、と思わなくもないのですが……。

それにしても、マスターと久遠のペアは萌えまするな。正直、主人公とかヒロインとかどうでもよくなっちゃうくらい。